Cage

距離

大学前の通りを昔の新宿駅へ向かい、少し行くとマンションやビジネスビルが立ち並ぶ。

以前はビルとビルの間にある大きな道路は、日常的に車が溢れ、歩道には沢山の人が行き交っていて活気に満ちていた。

しかし今では見る影もないことは周知のことである。

通りの一角にユウマの自宅マンションがあった。
GAP政策によって、政府が管理しやすいように旧日本人の住宅は密集しているので、ミウやカオナの自宅ともほど近かった。

ユウマはカオナと別れたあと、どこにも立ち寄ることもなく帰宅していた。

GAP関連の仕事に就く父親はまだ帰っておらず、母親も出掛けている様子で自宅には誰もいなかった。
テーブルに晩御飯の支度がないので、じきに母は帰宅するつもりなのだろう。

自室で鞄などを置いてキッチンへ向かい、冷蔵庫から母が作り置いたフルーツジュースを取り出し、食器棚にあった適当なアクリルカップに注ぐと、立ったまま一口飲んだ。
壁に掛かった時計を見やると、時針は十六時を少し回っていて、大学前でミウと別れて二十分くらい経っていただろうか。

キッチンの窓から西日が差し込みだしている。

パンツの後ろポケットから携帯電話を取り出して着信などを確認すると、特にミウからは電話やメールは来ていないようだった。
フルーツジュースを片手にキッチンを後にすると、自室に戻った。
部屋は片付いていて、美術書などの収まった書棚にはミウとのツーショットや、三人のスナップ写真が並んでいる。
どれも楽しそうに笑っている。
フルーツジュースを机に置き、参考書を持って、壁際に備え付けられたベッドに仰向けで読み始めた。
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