ネットワークライダー『ザイン』

 イゾルデは大きくかぶりを振ると実験準備室を後にしていた。


「はぁっ、あぁっ。だ、駄目だ。あれ以上代田と同じ場所に居たら、私の方が欲情してしまう」


 彼女は代田のクルクルと自分の前髪を弄る仕草や、ねっとりとまとわり付く視線を思い出しては、また大きく首を横に振って歩いている。そして先程博士捜索の指示を出したオペレーターの元へ取って返し、指令の変更を行った。


「鴻上の仕事は代田助教授が引き継ぐ事になった。捜索はもういいから、今後はマテリアル・トランスファー・デバイスの製作を最優先で行うように」


「フォー! 承知しました。イゾルデ副総帥!

 お前達も着いて来い」


「フォー!」「フォーッ」「フォー」


 了承の意味を持った奇声を上げる戦闘員達。

 迷彩色のタイツに包まれているオペレーターは、部下である紺色の全身タイツを着用した戦闘員達を従えて部屋を辞した。



───────テレビに映ったアナウンサー



『続報です。

 昨夜から報道されている大阪の変死事件で、被害者の肩口に残された傷痕から判断すると、ワニのような物から咬み千切られたという結論に達しました。

 ワニはいまだ周囲に潜伏している可能性も有ります。周辺住民の皆さまも、充分お気を付け下さい』


「先輩どうしたんですか? さっきから黙りこくって」


「ヨーちゃん……これ、ワニの仕業じゃないと思う。私怖いわ……」


 社員食堂でニュースを観ていた安倍萌子が俯くと、その艶やかなストレートロングの黒髪が透き通るような白い肌の顔を覆った。


「他にどうやったらそんな歯形が付くんですか? 先輩は恐竜がやったとでも思ってるんですか?」


「違うわ、ワニ人間よ。ワニの頭を持った人なの。夢で見たのよ」


  ワッハハハハハ


 ヨーちゃんと呼ばれた山岸洋子は腹を抱えて笑い、萌子に詰め寄る。体育会系のショートヘアを栗色に染めた、小柄な萌子と比べなくとも背の高い洋子は、上から見下ろすような格好で話を続けた。


「それってデジャヴじゃないんですか? それも妄想てんこ盛りの。先輩ったら可笑しい、フフフ」


 そんな洋子を振り返りもせず、またニュース画面を食い入るように見詰める萌子は、顔に下りた髪を掻き分けもせずに反論した。


「それが違うのよ、ヨーちゃん。ニュースは今初めて見たんだから!」


 しかし真剣な萌子の様子を見ても洋子は全く取り合わなかった。



< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop