ネットワークライダー『ザイン』

「どうして解って貰えないのかしら、私の夢には現実を見せる力が有るというのに」


 洋子が社員食堂を後にすると、萌子は誰へともなく呟いた。洋子に幾ら言って聞かせても、鼻で笑われてしまうのは解っていたからだ。


「でも、これは絶対ただ事では無いわ。代々陰陽師を務めてきた『安倍家』の血がそう言っているもの」


 長い黒髪の、小柄な萌子が考えを巡らせている様は、まるで童子人形のようだった。



───────警視庁特殊犯罪対策室



「こちらがFBIからの特使、クローネンバーグ捜査官です」


「ああ、こちらが……How do you do? Nice to meet you.」


「お気になさらず日本語で結構です。大抵の事は理解出来ますから」


 かっちりとしたスーツ姿のクローネンバーグは片手を差し出し微笑んだ。「それは良かった。英語は大して得意じゃないんです」とその手を握り返したのは笠井レオナ警部補。恰幅の良い身体をカーキ色のコートが包んでいる。


「名前が片仮名なので、皆から多少なりとも英語が出来る物だと思い込まれてましてね。

 こういう場に引っ張り出される事が多いんです……さぁ、どうぞこちらへ」


 周りの警官を捕まえて耳打ちしている所に声を掛けられ、クローネンバーグは咳払いをしながら笠井に付き従った。


「ああ、私は女ですよ、クローネンバーグ捜査官。周りからはオッサン扱いですがね」


 笠井は振り返り、女性にしては太く低い声で釘を刺す。


「聞こえてしまいましたか、申し訳ない。日本の女性はタイプが多様で、判断に困る時が有りまして……」


 彼は照れ隠しに帽子を目深に被った。


「これでもやまとなでしこの心は忘れていませんのよ? オッホホホホ」


「そうでしたか、申し訳ない。ハハ……ハッハ」


 クローネンバーグは笑い返したが、笠井のただならぬ雰囲気に圧倒され、幾分引き攣っているようにも見える。


「警視庁の秘密捜査官も召集してあります。彼らは身分を秘匿する為に、コードネームで呼ぶ決まりになっています。さぁ、こちらから」


 笠井に促されて、ひとりひとりが得意技能を発表する。


「赤い視線です。催眠術師です。私は個別の深い催眠が得意です」


 一歩前に進み出て会釈した彼女は極々普通の、寧ろ地味目なファッションに身を包んだそこら辺に幾らでも居るメガネ女子。


「ハーメルンの笛吹きです。私も催眠術師ですが、音楽に依る集団催眠が得意です」



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