マチルダ
「お願い…やめて…………」
堅い薔薇のトゲが、マチルダの白い肌に少し触れた。
すると途端に白い肌から赤い液体が浮き上がり、それは腕の上を滑って緑の芝生の上へと落ちた。
「…痛っ…」
マチルダは思わず小さく声を上げ、細い腕にぐっと力を入れる。
「どう?薔薇のトゲは痛いマチルダ?」
ミシェルがそう言ったとき、赤い液体は続けて二滴落ちた。
すでにマチルダの腕には血の通り道が数本でき、その上を沿ってさらに数滴流れていく。
「…やめてっ…」
「あら、なぜ?あなたは私のお人形なんでしょう。お父様が言ってたわ。だったら私がどうしようと勝手よね」
「え……うん…」
マチルダ最初ハッとしたが、すぐに下を向いてかすれ声で答えた。
悲しかったから。
私は所詮、お人形でしかないと
そう思ったから。
腕の痛さなんて、すぐになくなった。
あるのは痛む心だけ。
ミシェル、
私はあなたと姉妹のような関係と言って欲しかった
どんなことをされてもいい
だから
お人形とは言わないで…
マチルダの無惨な叫びは、未だミシェルへ届かない。