月影
「愛里がそんなことする必要ってあんの？」


さすがに店長に寝ろと言われたことは言えないが、拓真の疑問は当然のことだろう。


あたしだってそう思う。



「それってキャストのこと考えてないってことだろ？
普通はもっと大切にするだろ、店のこと考えたら。」


働きやすい環境を作る努力すんじゃん、と彼は口を尖らせた。



「わっかんないよ、もう。
考えるのにも疲れた。」


拓真はそんなあたしを見て、しきりに店替えを進めていた。


もっと良い店いっぱいあるよ、アイズだけが全てじゃないんだよ、と。


だけど、自分が何を求めているかがわからないのだ。


アイズにしても、拓真にしても。


また岡ちゃんの言葉が脳裏をよぎり、ため息混じりにそれを振り払った。


拓真と居ると、良くも悪くも仕事のことばかりだ。


上を目指す彼にしてみればそれも当然なのかもしれないが、ここが安堵する場所ではなくなることが嫌だった。


少しだけ、前より肌寒さを覚えた気がした。

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