月影
最近のアイズは入れ替わりが激しく、あたしもすっかり古株として貫禄が出てきた、らしい。


もちろん彩に言われたので嬉しくはなれず、何だかおばさんだと言われている気がしたのだが。



「レナさん聞いてくださいよ。
今日ね、みっくんが迎えに来てくれるんです。」


ジルが、彩を。


頭の中で無意識うちに反復してしまい、そう、とだけ返した。


いつかの、ギンちゃんの車に乗り込んでいく彩の姿を思い出すと、今も無性に悲しくなる。


それでも笑顔で言ったからか、彩も店から前借りしている風には一切見えず、どう見ても順調そのもののような顔。


だから気をつけて、と言うタイミングを失ってしまう。


とても幸せそうだった。



「困ってることはない?」


そう聞くと、ないですよ、と彼女はきっぱり言う。


だとするなら、彩のお金が必要な理由は、ジルではないということ?


はたとそんなことを考えている自分に気付き、思考を振り払った。


あたしには関係ないと言い聞かせているはずなのに、なのに今もまだ、あの人の鎖に繋がられている気がしてならない。


手首にはもう、何もないのに。

< 332 / 403 >

この作品をシェア

pagetop