月影
ジルと会うことがなくなったと同時に、ギンちゃんに遭遇することもなくなった。


今までは、どこかのコンビニでばったり会うと、決まって意味もなく話し掛けられていたのだが。


まぁ、会わないに越したことはないのだろうけど。



「レナさんも会っていきます?」


弾かれたように顔をあげると、そこには笑う彩の姿。


この子はわかってんだかどうなんだか、恐ろしいと思ってしまう。



「そうだ、みんなで一緒に食事でもしましょうよ!」


あたしと彩とジルとで、どんな会話をしろと言うんだ。


笑顔の奥で、こちらの反応を伺うような瞳が見つめている。


ごめんね、とあたしは、何事もないように口元を緩めた。



「これからなおちゃんとご飯行くんだ。」


これは本当だった。


でも、予定があってこれほど良かったと思ったことはない。



「そうですか、残念です。」


「また誘ってね。」


心にもないことを言うと、またぱあっと笑顔になった彩は、早々に帰り支度を済ませ、部屋を出た。


力が抜け、ため息混じりにこめかみを押さえる。


忘れたいのに、そうはさせてもらえない。

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