月影
「葵ちゃんはどうしてるかなぁ?」


「…わかんない。」


実家に戻ったという話を人に聞いて以来、その後は知らされていない。


連絡を取ることもなく、向こうからも音沙汰がないのだ。


第一あの葵に、ホストと付き合ってるなんてことも言えないし。



「サキちゃんは?」


「トオルさんの他にも、別のお店でお気に入りクン見つけたんだって。」


「ははっ、それは良いことだ。」


何だかんだ言っても、拓真は今もトオルさんに負けたくはないらしい。


そして「サキちゃんは相変わらず元気そうだなぁ。」と笑う。



「キングス行ってみたいって言ってたよ?」


「じゃあ、俺を指名してもらえるとありがたいんだけど、って言っといて。」


瞬間、目を見開いた。


すぐに拓真は「嘘だよ!」と笑うが、背筋に嫌な汗が伝うのを感じた。


彩と影で連絡を取り合っていたジルのことを思い出し、拓真まで、と思ったから。



「さすがにそれ、笑えない。」


ありえないけど拓真とサキちゃんが連絡を取るということは、裏切りに近かった。


仕事だとわかっていても、急に怖くなる。


ジルと重なる拓真は嫌だ。

< 335 / 403 >

この作品をシェア

pagetop