月影
そういえば、と彼は、思い出したように焦って言う。



「俺の誕生日、何くれんの?」


あぁ、と一度息を吐いた。


来週は、拓真の誕生日だ。


彼もあたしも仕事だから、何をするというわけでもないが、一緒に祝おうと言っていた。



「キングス行くよ。」


拓真の新しい店には、まだ行ったことがない。


売り上げに協力してくれと言われたこともなければ、来いとも言われないからだ。


だけどもそれで不安になるのかもな、と思ったから。



「そういうの、ホントいいのに。」


「けど、あたしが祝いたいんだよ。」


そう言うと、彼はわかったよ、と犬のようにくしゃっと笑う。


少し安心した自分が居た。


拓真が自分の誕生日に賭けているのはわかっていたし、素直に協力してあげたいとも思った。


何より、どうにかしてこの不安を取り除きたかったのだ。



「じゃあ店終わったら、ふたりでケーキ食べようね。」


「犬用のヤツ用意してるね。」


「こらこら。」


拓真はずっと、何も変わっていない。


だから多分、おかしいのはあたしだけなのだろう。

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