しょうがい
「何言ってるんだ？おばさんけっこうやばいみたいなんだぜ。行けよ！さあ早く」

「……」

彼は僕が動く気配がないのを確認すると、その場に腰を下ろし中腰になった。すぐ近くでは例のガラの悪い連中が煙草を吸っている。

彼は大きく息を吐き、僕のことを軽蔑するかのような目でこちらを見た。

「どうして、そんなに家族のことを嫌ってるんだ？昔はそうじゃなかっただろう。そうだな、少なくとも中学の終わり頃までは」

「別に嫌っているわけじゃないさ」

僕は強気に反論した。

「それなら、どうして？高校に入ったくらいからだよな。お前が家族と距離を置くようになったのは」

僕はそんな彼の言葉を聞きながら、家族を隔たる1メートル9センチのことを考えた。そう、家族に壁が出来たのはまさしく高校に入ったばかりの時のことである。僕は北沢の鋭い洞察力に感服しながら、その日のことを思い出そうと努めた。

あれは晴れ渡った空の下、しかしながら僕の心の中では大粒の雨が降り注いでいた。その雨粒はやがて僕の全てを包みこみ、絶望の淵へと追いやった。本当なら、忘れたくてたまらない。だが、この日のことを僕は決して忘れないだろう。
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表紙・目次

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