しょうがい
「いってきます」

家の中で大きな声がこだまする。世間の高校生はこんなではないのだろう。意味なく親を避ける。それが思春期、それが高校生。しかし僕は例外だった。

「いってらっしゃい」

母も僕を温かく見送った。父は早くに出発したが、すでに挨拶は済ませている。臭い台詞を堂々と言わせてもらうと、僕は家族を愛していた。

学校へ行くべく、僕はバス亭まで歩いた。家からバス亭までは五分くらいで着く。小、中学校とバス通学だったため、バスで登校することには慣れていた。

いつも通りなら、バス亭に到着すると他には誰もいず、バス亭のベンチは僕だけの物だったはず。しかし、この日はなぜだかすでに先客がいた。

「おはようございます」

いきなり先客が挨拶をしてきたため、僕も「おはようございます」と挨拶をした。

先客は女性で、年は四十過ぎくらいに思われた。髪はうっすらと茶色っぽく、華奢な体つきである。あまりに華奢すぎるため、その女性が朝早くからバス亭にいるのも不思議だった。今にも貧血で倒れそうで、僕は思わず救急車を呼ぶところだった。

僕は先客に席は譲ることにしてそのままベンチの隣りに立ち、バスが来るのを待っていた。

しばらくの間黙っていると、不意に隣りの彼女が僕に喋りかけてきた。
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