しょうがい
隣りの彼女は僕と目があったことに動揺し、すぐさま目線をそらした。しかし、彼女の中でその行為に納得がいかなかったのか、一息間を置くと再び目線を僕へと戻した。

僕は目線を合わせているうちに、不思議な感覚の中へと誘われることになった。彼女とはどこかであった気がする。何か懐かしい感じを思い出させる。そのような感情が、僕の心を揺さぶったのだ。けれどもそういった感情というものはそこに何の確信もなく、所詮はただの思い過ごしかもしれなかった。

この感情に決着をつけるべく、僕は思い切って尋ねてみることにした。

「あの、すみません。あなた、僕とどこかでお会いたことありますか?どこかであった気がするんですけど」

彼女は僕のその言葉を聞くなり急に目を潤せ、さらには嗚咽をも洩らしはじめた。

彼女のその反応があまりに予想外で、理解に苦しむものだったために、僕は混乱しオドオドと辺りを見回した。だがそれが無意味な行動であると気付いた僕は、すぐさま心を落ち着かせ冷静な対処を心掛けようとした。

「…ごめんなさいね」彼女はハンカチで目を拭きながら、ボソッとつぶやいた。「気にしないで、大丈夫。ちょっと感きわまっただけなの」

彼女の言う「感きわまった」のがなぜだかは知りえなかったが、僕は安心し胸をなで下ろした。
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