しょうがい
「私はいいの。行き先が違うから。次に来るバスに乗るのよ」

「ああ、そうか。じゃあ先に失礼します」

僕はそう言ってバスに乗り込もうとした。その時。

「ちょっと待って！」

いきなり彼女が大声で言った。叫んだというほどではないが、とても彼女から出た声だとは思えないような大きな声であった。

僕は何事かと思い再び後ろを振り返った。忘れ物でもしたのかな。僕は彼女の放った声について、自分に関する何らかの非であると予想したのだ。しかし、彼女が次に発した言葉は、僕の予想と反するものであった。

「あっ、いや、学校頑張ってね。元気でね」

彼女のその言葉は、まるでいままさに永遠の別れを言う、家族から出るような内容のものだった。彼女はその後僕に手を振り、僕も愛嬌よくそれに対応した。

バスの運転手は僕が乗ったのを確認すると、扉を閉めてバスを発車させた。僕は近くの空いている、最も後ろの席に座った。

そこの窓から後ろを眺めると、もう一台のバスがこのバス亭に接近していた。しかしバスはそこに停車することがなく、そのまま僕が乗っているバスの後ろに続いた。どうやら例の彼女はバスに乗らなかったらしい。

遠くからバス亭を眺めた。しばらくするとその彼女はそこから去り、どこか知らない場所へと消えていった。
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