魔王に忠義を
恐らくは俺の周囲を歩いていた人間でさえ、俺の姿が『消えた』としか思わなかったであろう。

無音、予備動作無しの跳躍。

その素早さも勿論だが、跳躍力も半端なものではない。

眼下に人混みを見下ろすほどの高さ。

当然ナハトも確認できる。

その標的をしっかりと見据えながら、俺は背中のブレードをスラリと抜いた。

そして重力に任せた落下が始まると同時に、リコイルスターターを引く!

唸りを上げる2ストロークエンジン。

その凶悪なまでの咆哮に、大通りを行き交う人々が頭上を見上げる。

ナハトとて例外ではない。

彼女は人形のような端正な顔立ちを歪める事もなく、ただ瞳だけを大きく見開いた。

時既に遅し。

気づいた時には俺はブレードを大きく振り上げ、袈裟斬りの動作に入っていた!

「頂く」

気負いもない、憎悪もない、歓喜もない。

ただ仕事だけを淡々とこなす。

何の感慨も湧かないまま、俺は無感動に凶刃を振り下ろす!

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