魔王に忠義を
ナハトの呼んだ名で俺は悟る。

この少年がアキラ・ウェズリー。

『火の玉』の異名をとり、つい先日ドーラを震撼させた突然変異の竜種、通称汚竜をほぼ一人で仕留めたという凄腕の狩猟者。

今では『竜殺し』という二つ名も持ち、戦いに身を置く者の中ではちょっとした有名人であるという。

となると…。

俺はアキラの握る大剣に視線を注いだ。

あれが噂に名高い討竜の剣。

ファイアルに生息していたという希少種の竜四体からその素材を入手し、剣に加工したという名剣。

今でこそその能力は失っているらしいが、汚竜討伐の際には決して刃こぼれせず、新品同様の切れ味を永遠に持続させるという反則的な剣であったという。

「お前、何者だ?」

その討竜の剣を構えたまま、アキラが俺を睨む。

真っ直ぐな、まさしく烈火の如き瞳。

永らく闇の中を歩いてきた俺にとっては、その視線は少々眩いもののようにも思える。

そして同時に苛立ちも覚えた。

この少年は、人間の汚らしい部分など見ずにここまで成長してきたのだろう。

昨日までの隣人が、時勢が変わると同時に迫害者となるような人生など歩んだ事がないのだろう。

ぬくぬくと育ってきた温室育ちの小僧が…!

「そうだな、とりあえず…」

無表情のまま、俺は切っ先をアキラに向ける。

「Ⅵ番と名乗っておく」

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