魔王に忠義を
「だったら!」

アキラが抜剣する。

俺もブレードを抜き、リコイルスターターを引いた。

不完全な魔王。

好機だった。

かつての四英雄や六英雄ですら命と引き換えにしなければ封じる事ができなかった古の巨悪。

英雄ですらない俺達だけでどうやって太刀打ちするのか不安ですらあったが、腕だけならば。

魔王の一部だけならばこの面子でも何とかなるかもしれない。

「このままもう一度封印の中に押し返す!」

咆哮、そして突進。

討竜の剣を振り上げ、アキラが先陣を切った。

まさしく火の玉。

恐れも脅えも微塵も見せず、黒い邪悪に敢然と立ち向かう。

振り下ろした刃は、魔王の腕に確かに食い込む!

傷口から噴き出す鮮血。

しかし。

「アキラ…!…返り血を浴びないで…!」

ナハトが叫んだ。

そういえば四英雄の伝説にあった。

四英雄の一人、土の英雄が魔王討伐の際にその返り血を浴び、不老不死の力を得たと。

噂ではそれだけではなく、人ならざるおぞましい姿に変貌したとさえある。

返り血を浴びる事は、下手をすれば命取りになりそうだ。

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