白球ノート
あのボールを見て、
岸田監督が小さな声を漏らしてた。
「やっぱり今年1年のエースは宮地で決まりだな」
あの言葉、サオにも聞かせたかったよ。
厳しい岸田監督はいつもヒデに辛く当たってきた。
お前の球は速さだけか?
速さだけの球なんて使えない!
何人ファーボール出せば気が済む?
デッドボールで怪我人を出すつもりか!
その言葉がブルペンに響くたびにみんなが目を泳がせた。
サオは不安そうにドリンクを取り替えたりしてたよね。
岸田監督に罵声を浴びた日は、
ヒデは決まって最後までグラウンドに残る。
マウンドに座り込み、
タオルで顔を隠しながら下を向き続ける。
誰も声を掛けられなくて、
帰るに帰れなくて、
みんなで部室に遅くまで残ったよね。
時間を見てなのか、
ふいに部室の扉を開けてグラウンドに向かって叫び出す。
「ヒデ!帰るよ!」
これはいつもサオの役目だった。
サオが呼ぶと、
随分すっきりした顔でヒデは部室の扉を開ける。
サオにしかわからない時間なのかな?
私には深刻なヒデに話しかける勇気がなかったの。
でもサオはいつも笑顔で、
明日!明日!ってヒデの背中を叩いてた。
さっきまで不安そうな顔をしてたサオがヒデの前では嘘のように笑う。
そんなサオの姿を見て、
マネージャーとして尊敬してた。