図書室の朱、霧雨の空。
 冬目 春樹(ふゆめ はるき)。
 これがあたしの名前だ。
 はるき、なんて男みたいな名前とかいわないでね。苗字が冬だから、名前くらいは暖かいのにしようって母さんと父さんが考えたんだって。あたしは結構気に入ってるんだ。
 小学生のころは「男みたい!」っていじめられたけど、あたしは明るい方だし、気も強くて喧嘩っ早かったから男子と喧嘩しながらなんとか上手くやってきた。あと、自分でいうのもアレだけど、結構可愛い方だし。
 とにかく、名前が女の子にしてはちょっと男っぽいだけの、遊びたい盛りの女子高生なのだ。

「ハルー、今日カラオケ行かねえ?」
 間延びした男子の声。”ハル”はあたしのあだ名だ。
 あたしを呼んだヒカル――本名は高村 光(たかむら ひかる)という――は、あたしとは反対に女の子みたいな名前の男子だけど、あたしと同じくあんまり気にしていないみたい。
 でもやっぱり小学生のころは名前でからかわれてたっぽい。あたしの名前の話をした時に、自分のことも思い出したのか、ちょっと苦い顔をしていたから。
「あー、アタシも行くー」
「アタシもー」
 ヒカルの声を聞いた周りの子たちが男女問わずにがやがや集まってくる。
 ハルも行くよな? 当然あたしが行くと思い込んでいる顔でそう聞いてきたヒカルに、うーん。とあいまいな返事を返す。
 正直言って、今日は二日目だから行きたくないのだ。
「えー! ハルったら彼氏の誘い無視すんのぉ?」
「ひどぉ~い」
 皆の言う通り、ヒカルはあたしの彼氏だ。
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