加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 肋が痛くて、あまり大声を出せないあたしの声は、孔明師範には届いていなかった。

 遠くの方から、パトカーのサイレンが聞こえた。

「おっせぇよ」

 大山先輩が、ゼェゼェ言いながら呟いた。

 孔明師範にも、聞こえたらしく。

「欄、次こそ中国に連れて帰りますよ。貴様は、私の手で殺す」

 と、言い残して部屋を出て行った。


た、助かったぁ。


「大山先輩、大丈夫、ですか?」

「大丈夫じゃ、ねぇよ」

「どこ、痛いですか?」

「あちこち痛ぇよ。でも、お前を守ったからな」

「え?」

「俺の代わりに蹴られやがって・・・ダメかと思ったぜ。この前といい今日といい、お前な、弱いんだから、どけとか言うなよ。必死で守ってんだからよ」


え?


 あたしの顔が、熱くなる。


「ま、お前に死なれちゃ、昨日の昼飯代請求出来なくなるから、困るけどな」


え?


昨日の昼飯代?


何のこと?


ここ最近大山先輩に、お昼ご飯連れてってもらったのって……。


あっ!


大山先輩が、記憶無くなる日の前の日!


後で請求するって……。


まさか。


まさか?


「大山、先輩?私のこと・・・わかるん、ですか?」

「欄だろ?」


 即答してくれたけど、名前だけじゃ、確信がなかった。


 だって、記憶無い時も、欄って呼んでくれたもん。


 あたしと、大山先輩にしか、分からないような・・・。


これって、決めては・・・。

「あの、わ、私の、じゃ、弱点、知ってますか?」

「弱点?」

 大山先輩は、言ってチラっと目線を下へ下げたが、顔を赤くして、すぐに目線を外した。

「ば、馬鹿。そんな格好で、そんなこと言うな」

 確かに、そんな格好だ。

 さっき動きにくくなるため、ダボダボの高遠先輩のコートを脱いだから、ブラウスがほぼ全開状態で、大山先輩には、モロにブラジャー姿が目に焼き付いたはずだった。

 その安心感からか、一気に記憶を失った。

 大山先輩も、体力の限界が来てあたしの上で力尽きた。

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