君だけに夢をもう一度

慕情

レストランを出た二人はタクシーに乗り込んで渋谷にあるバーで飲むことにした。
その店は、二人が学生時代に通った店だった。

当時、渋谷にあるライブハウスで演奏した後、バンドのメンバー達と一緒に飲みに行った店だった。
そこのマスターも以前はプロの歌手で、二人は、よく面倒を見てもらった。

食事中、その店の話題が出た。

今でも、その店があるのかわからなかったが、懐かしさに訪ねてみようと、敦子が言い出した。

正和は、食事をしたら、そのままホテルに向かうはずだった。
しかし、正和もマスターに会いたい気持ちなった。

正和が、東京を離れる時、マスターには挨拶をしていなかった。
その時は、音楽への夢を捨てた惨めな自分の姿を見せたくなかったからだ。

実家に帰り、マスター宛に感謝の手紙を送った。
それ以来、マスターとは音信不通になった。

いつか、東京に出向いて、マスターに挨拶したいと思っていたが、なかなか思い切ることができなかった。

敦子が誘ってくれたことで、マスターに会えて挨拶しょうと思った。
そのため、素直に敦子と一緒に行くことを決めた。


< 45 / 76 >

この作品をシェア

pagetop