婆ちゃんの恋物語
焼けた家の跡形もない場所で、そこに、お母ちゃんとお婆ちゃんとお爺ちゃんが居るみたいに、叫びはった。

春の風が、カサカサと焼けた木屑を舞い散らせ、うちらの服に、降らして来たん。

お母ちゃんの涙、お婆ちゃんの涙
お爺ちゃんの涙



お婆ちゃんに一昨日会うたのに、帰るはずやったのに、何も無くなってもた。


トラックの助手席、揺られながら、勝手に涙出てたわ。



靖ちゃんも、うちも、戦災孤児と言う年齢ではないんやけど、身寄り無くなってもた。
うち、誠さんと、空き家に帰ってから、もう、街には、下りひんかったん。

桜が咲いても、ただ悲しくて、これからどないしょうって、靖ちゃんに、話をしたんは、桜が散りかけた頃やってん。

「桜、散り始めたな。
麻ちゃん、覚えてる。」
「何を?」

「学校の桜の花びらを集めて、押し花したん。」
「また、作ってみよか?。」

お互いの家族の話を、させるように、少しずつ、少しずつ、会話が戻って行ったんやわ。

誠さんと巧君は、街とこの空き家を、往復しながら、食べて行けるように、運送屋みたいな事を始めてた。軍も、壊滅的にやられて、連絡が取れてないとかで、材木を運ぶ傍ら、薪になるような、小枝や、枯れ木を売って、食料に替えて来て、皆が飢えないようにと、動いてはった。

うちらも、空き家の庭に畑を作ったり、小学校で行われる訓練に参加したりして、必死で、1日1日過ごしてた。

4月、5月と空襲は少なく、穏やかな春の日をすごせたん。

巧さんのお母さんとお父さんが、靖ちゃんを、嫁さんと呼ぶようになって、うちの事は、奥さんになったん。

なんや照れくさい、今まで通り、麻ちゃんと靖ちゃんでええって言うのに、お父さんは、頑として、奥さんと嫁さんと、呼んではったわ。

身寄りが無くなったうちらに、家族が必要やったし、新しい家族の為に、生きて行こうと思うようになってたんよ。
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