婆ちゃんの恋物語
なんでか、凄い静寂の壕の中。
頭と身体は、緊張してるのに、目を瞑ったら、別の事を考えようとしてる自分がおってん。

靖ちゃんが、うちの手を握って来たん。

なんや、その温もりが、緊張した身体に、安らぎを与えてくれたんかなあ。

「なあ、外どないなってるんやろか?。」

ボソッと、靖ちゃんが声をかけて来たんわ。
爆音も地響きも遠のいてしまってからやったわ。どれぐらい、此処に居たんやろ。何時もより、倍は居た気がするけど、
時計を見る気にもならへんかってん。

モンペの紐に袋をつけて、靖ちゃんも、巧君の腕時計持ってたし、うちも、ペンダントみたいに、ブラウスの中に、配給の靴ひも数本使って、首にかけてたんやから、見ようと思たら見れたんやで、

「まだ、出たらあかんで、」

「煙にまみれて、何も見えへん。」

次の日の朝、15日の早朝まで、ただ、外から漂って来る、煙に息苦しさを感じながら、耐えるしかなかったん、


鉄の蓋は、焼けて、真っ赤になって。それを、つっかえ棒で開けて、外に出た時、つっかえ棒が、ジュージュ焼けるような音を立てて、外への恐怖を煽ってたわ。


「真っ黒やなあ〜。」

「なーんも、ないやん。」

「トラックが、まだ動くから、荷台に乗って。」
先に、外に出た誠さんと巧君が、煙の霧の向こうから、皆を呼んでた。

壕を出たんは、昼近かったかなあ。

壕に逃げ込んだ人達、10人以上おったはずや、皆、煙にむせながら、焼け野原になった。辺りを見回しながら、とぼとぼ歩いてた。
事務所も、積み上げてた材木も、借家にしてた長家も、焼けてもた。かろうじて、事務所の半分とトラックが、残ってた。
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