DOLL・・・ ~秘密倶楽部~

車から降りた乙羽は
ヒョコヒョコと足を
引きずっている


「?」


「エヘ//
 痺れちゃった」


頬を赤くする乙羽


「...ったく
 
 だから前に座れって
 言ったろ?」


「ヘヘ...//」


「まだちゃんと
 整備されてないから...

 気を付けて...」


そう言い柊音は
少し険しい岩々の間を
乙羽の手を引き
ゆっくりと海岸へ
降りて行く


「平気?」


「ぅん」


しばらくすると


ザザーン...

懐かしい波の音が
聞こえてくる


誰もいない砂浜に
静かに寄せて返すだけの波

天高く昇った月が
青白く海を照らし出している


そんな目の前の光景に
乙羽は引き寄せられるように
波打ち際へと歩き出す


波の音...

風の音...

潮風すらも心地いい



まるで子供みたいに
波打ち際ではしゃぐ乙羽を
柊音は少し離れた場所から
優しい瞳で見つめている


ひとしきり
波と戯れた乙羽が
柊音の元に来ると


「ぁのさ...
 満喫し過ぎだから!
 
 今、完全に俺のコト
 忘れてたよね
 
 ったく...
 インド派が聞いて呆れるヨ」


「ぁ...//」


しまった...と
いわんばかりの
素直な乙羽の表情に
柊音はお腹を抱え笑い出す


「ぶっ!
 あははは!」


「だって...//

 ホントに久しぶり
 だったんだもん...///
 
 ...てか、さっきまた
 インド派って言わなかった?」


「...言った
 
 久しぶりの海に
 はしゃぐ人のことを
 インド派って言うんでしょ?
 
 ナマステ~...」


「もぉぉ//」


天高く昇った月が
浜辺で はしゃぐ二人を
やさしく見守る

やがて...
はしゃぎ疲れた二人が
砂浜に倒れ込むと
満点の星空が二人を包み込む


「夜の海なんて
 久しぶりに来た...

 気持ちいい♪」


「...ぅん」


「髪...
 砂がつくだろ...」


そう言うと柊音は
自分の着ている
ジャケットを脱ぎ
それをたたんで
乙羽の頭の下に置く


「ぇ...
 いいよ..平気...//」


「いいから」


柊音は乙羽の頭の下へ
たたんだジャケットを置く

静かで心地いい時間が
流れていく


「さっき...」


「?」


「さっき...
 月、見て泣いてた?」


「//」


「無理には聞かないけど
 
 あんな限られた空間に
 閉じ込められていたら
 誰だって...
 おかしくなる

 たまにはこうやって
 息抜きしなきゃ...」


 その為に...
 連れてきてくれたんだ


「あたしね...
 月が好きなの

 満月の日は
 眠くなるまでずっと
 窓際で月を見てたの

 そんなあたしに兄が
 特等席を作ってくれて...

 そこで月を見ながら
 二人でよく
 いろんな話をしたの」


「ふぅーん...
 仲がいいんだな」


「ぅん...
 優しい兄だった」


「...だった?」


「...ぅん
 
 もぅ、いないの...

 事故で...」


「...ゴメン」


「ぅぅん
 
 あたしね...
 ずっと泣けなかったの」


「?」


「兄が亡くなって
 悲しくて辛いのに
 全然、泣けなくて...

 周りの人達はみんな
 兄を偲んで
 涙を流しているのに
 あたしだけ...

 おかしくなったと思った...

 でも今日
 兄を思い出して
 涙が出てホッとした...」


「人って...

 あまり悲しすぎると
 泣けないんだって...」


「...そうなんだ」


「月...

 俺も好きだけど
 もっと現実的かな」


「?」


「俺の場合は
 好きってりうより
 興味かなぁ?」


「ぁ、それ
 兄も言ってた

 月面着陸や表面のデコボコに
 興味があるんでしょう?」


「デコボコって...」


「クスッ」


「俺、お兄さんと
 気が合ったかもな」


「そだね

 あたしは
 月の灯りが好き

 あの、おぼろげな
 月の光を浴びると
 なんかとても気持よくって」


「ふぅ~ん...

 もしかしてオオカミ?」


「ぇ、オオカミ?

 オ、オオカミって
 月が好きなの?」


「ぇ?
 
 分かんないけど...
 
 でも、よく月に向かって
 吠えてんじゃん?

 ワォーンって...」


「それ...
 狼男でしょ?」


「同じだろ?」


「ぇー!
 全然、違うよ~!」


「じゃ、かぐや姫?」


「かぐや姫...?

 ぅ~ん、まぁ...
 どっちかといえば
 そっちの方で...//」


「ブハッ!!
 ぜぇ~たくぅ~~~」


「///」




夜の冷たい海風は
二人の体温を奪っていく


「ックシュン!」


柊音のくしゃみで一気に
現実へと引き戻された乙羽は
急に不安になり辺りを見回す


「...風邪ひいちゃう」


乙羽は柊音が頭に
敷いてくれた
ジャケットの砂を払い
柊音に返す


「ね...
 もぅ、帰ろう...」


「ぇ、もぉ?」


「ぅん...」


突然、不安に駆られた乙羽は
辺りを気にし始める


「分かった...」


 チェッ
 いい雰囲気だったのに


自分のくしゃみに
腹を立てながらも柊音は
起き上がり
服についた砂を払う

車に戻る二人の影が
青白い月明かりに照らされ
砂浜にまっすぐ伸びる


 手を..つなぎたい...


そう思ったのはきっと...

冷たい海風に
体温を奪われたから


すると...

柊音の大きな手がそっと
乙羽の手を包み込む


「//」


胸が..苦しい...
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