悪魔のいる教室
「ケガ大丈夫?」


手ぶらの悪魔が椅子に腰掛け、教室に再び会話が零れ始めた時。

私は悪魔に声を掛けた。


この一言を言うかどうかで、私がどんだけ悩んで、どんだけ勇気を振り絞ったか。

私からすれば、一世一代の大勝負みたいなものだった。


一言でも返事がくれば、大満足。

無視されたら……結構、傷つく。


冷たい言葉や態度が私はすごく苦手で、それが友達といるのが疲れる原因の1つだと自覚してる。

自覚してはいるけど、こればっかりはどうする事もできない。

なるべく人と関わらないようにするしか、今の私にはいい策が思いつかない。


それなのに、そんなリスク背負ってでも悪魔に話しかけてしまった私は、一体何がしたいんだろう。


そんな言葉に出来ないような漠然とした、不安にも似た気持ちを抱え、悪魔の反応を伺う。


返事もせず、無視もせず。

感情の読めない表情で、悪魔は私を見つめた。

切れ長の二重瞼の腫れはひいてはいるものの、打撲の後みたいになっててまだ痛々しい。


「……お前さ」


ゴクリと生唾を飲み込んだ時。

綺麗な形の薄い唇が動き、小さな低い声が私に届いた。


「なんで俺に構うわけ?」


──自分でもわからない事を聞かれた時、私はなんて答えればいいんだろうか。
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