迷子のコイ
「あっあのねっタカくん!
 あたし急いでるの!!
 じゃあね!!」


そう言ってあたしは
タカくんに背を向けた。


「早坂! 待ってよ!!」


いそいで走り出そうとしたあたしを
タカくんの手がとらえる。


「・・・ヤダ・・・離して!!」


タカくんの力強い腕は
あたしを背中から抱きしめて
放してくれなかった。



「・・・ヤダ・・・離して!!」


あたしはその腕のなかで、懸命にもがいた。

それでもタカくんは容易に離してはくれない。

タカくんの顔が
あたしの髪にうずもれる。

「早坂・・・」

耳元で聞こえるカレの声が
あたしはただ怖かった。


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