迷子のコイ
・・・マンションの階段を下り、
少し行くと、
カケルは急にあたしの手を離した。


「・・・俊哉か?」


「えっ」


「・・・ここの場所教えたの」


カケルはあたしを
まったく視界に入れようとせずに
淡々と話す。

そんなカレの後ろ姿を見つめながら
声がふるえて、
うまく言葉がでてこなかった。


・・・ずっと会いたくて会えなかったカケルが
目のまえにいた。


2年ぶりに会ったカケルは
思い出のなかよりも背が高くなっていた。

顔つきも、あの頃よりずっと大人になっている。

ただひとつ。

あの頃サッカーで焼けていた肌は白くなり、
今はもう、カレがサッカーをしていないことに
あたしは気づかされた。

やっぱりもう、ムリだったんだ・・・。




「・・・いつ、帰ってきてたの?」


あたしはカケルに、思い切って訊いてみた。

カケルはしばらく黙っていたけど


「去年の夏」


ぶっきらぼうにそう答えてくれた。
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