迷子のコイ
「カケル、あのねっ!」


あたしは2年前の夏の
あの出来事をカレに謝ろうとした。

カレがあたしをかばって怪我をした
あの忌まわしい事件のことを。


「・・・あのさぁオレ、帰ってい?」


急にカレは言い出した。


「オレ、オマエとしゃべってても
 全然ツマンネーから」


右足をかすかにひきずりながら
カレは横を通り過ぎる。


「じゃあな、『早坂』」


そう言いながら通り過ぎる瞬間、
あたしの頬に
カレの大きな手がのびた。

やわらかいカレの唇が
あたしの口に触れ、
次の瞬間にはもう・・・離れていた。




(  なに・・・・?  )


何が起きたのか、わからない。
なんだか怖くて、ふりむくことができなかった。



(  あれは、ダレ・・・・?  )



『もうオレらの知ってるカケルじゃねーよ』


俊哉の声が聞こえてくる。

2年の歳月は、カレを別人に変えてしまっていた。
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