迷子のコイ
「どうもアリガト・・・」


「じゃあな」


そういいながらも
なかなか行こうとしないカレは
あたしに、何かを言おうとした。


「早坂、俺さ・・・」


自転車に足をかけたカレは
一旦、乗るのをやめ、
あたしに何かを言おうとした。


「・・・・・いや、やっぱりいーや。
 じゃあな」


「あっ!」


言いかけたその言葉の続きを
待っていたあたしを置いて
カレは外灯だけの暗い夜道を
自転車にのりながら、帰っていく。


あたしは、
そんなカレのうしろ姿が
見えなくなったあともしばらく
カレが走って行ったその道を
しばらくずっと、ながめていた。
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