迷子のコイ
「・・・行くぞ」


うつむいたままのあたしに
カレが言う。

あたしはカレに引きずられるよーにして
その場を離れはじめた。


廊下にいた子たちが
『ナニ ナニ』ってふーに
興味津々で、こっちを見てるのがわかった。




「アイリ!!」


佐伯くんと一緒に
その場を去ろうとするあたしを
沙紀ちゃんが呼ぶ。


「アンタ、おぼえときなさいよ!
 ミナのカレシとったこと
 許してないんだからね!」




『ちがう!』


そう言いたかったけど、声がでなかった。


あの、春の1件から
沙紀ちゃんがあたしに
話しかけてきたのは初めてだった。

今まではずっと
ムシされてるだけだったから・・・。


あたしへの憎悪まるだしの沙紀ちゃんを
あたしは『怖い』と思ったけど
黙って手を握っててくれる
佐伯くんの手に
なんだかとても
守られている気がしてた。
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