君と、○○のない物語
走りながら朔太郎は周りの家々を見てみたが、灯りの灯された家も人の気配も全く感じられなかった。
もしや、公鳥もいなかったりするのだろうか。
…というか、此処からどう行けば公鳥の家なのだろうか。
『―……く……ん…』
「っ、また」
再び、幼い茅原の小さな声がしたかと思うと、前方にフワフワ走る茅原が現れた。
茅原はまさに朔太郎が行こうとしている方向に走っている。
さっきの春海らしきものは、追い掛けないほうがいいと言っていたが、あれは本当だったのだろうか。
春海自体が虚像だったのだから、それも嘘かもしれない。
茅原は時折朔太郎を振り返り、いることを確認しているように見えた。
着いてこい、と言っているように見えた。
付かず離れず、距離を維持しながら走り、ようやく茅原が立ち止まり消えたのは、やはり公鳥の家の前だった。
あの茅原は、家の中に入ったのだろうか、姿が見えない。
「…公鳥ー…。」
一応インターホンを押して呼び掛けてみるが、家は灯りも点いていない。
人の気配が感じられず、ひっそりと静まり返っていた。
「いないよ」
「え、…ぬわっ!?」
消えたと思った幼い茅原が、今度は朔太郎の背後にいた。
さっきまで不鮮明だった声も、はっきりと聞こえてくる。
「いなかったよ、夏樹。」
「そう…なんだ。てか茅原さん?」
「要だよ。」
やはり本人なのか。
「…うん、あの、なんで此処に…」
「探してるの。」
いや、主語を述べよ。