君と、○○のない物語
◆◇◆◇◆


―…眩しい。
そう思って朔太郎は眉間にシワを寄せ、ゆっくりと瞼を上げてみる。

目が慣れて、見えてきたのは白い天井だった。

少し視線を左に逸らしてみると、白いカーテンのついた窓と、自分のすぐ傍には点滴が立っている。

此処はどうやら病院のようだ。

自分は一体どうしたんだっけ、確か、自分で首を―…

「…っあ…」

誰かの面食らったような声が視線の反対側から聞こえてきて、今度はそちらを向いてみる。

女の子がいた。
黒い髪が肩にかかった、日本人形みたいな女の子が、入り口のドアに手をかけたまま立っている。


(…可愛い、けど、誰だろう。)

女の子はどうしよう、と言った様子でうつ向き、ドアから一歩退く。

「…ご…、ごめんなさい…っ」

女の子はそれだけ言ってドアを閉めてしまった。

ドアの磨りガラスから見て、逃げるように走っていってしまったのがわかる。

部屋間違えたのかな、と思って、朔太郎は再び自分が此処にいる理由を考えた。




「―…良かったねえ目が覚めて。大月君、もう三日も眠っていたんだよ。」

朔太郎が目覚めた事を知り、病室に現れた医師は安堵したようにそう言った。

「今日は6月の7日だよ。三日前に何があったか覚えている?」

「…首、切れて…」

「そうだよ。大変だったね。…検査は明日改めてやるから、今日はもう休んで。傷がまだ塞がってないから安静だよ。」

医師は気を遣っているのか、やんわりと言って病室を離れていく。

再び一人になった静かな病室で、朔太郎は天井を見つめてみる。

寝過ぎで頭はぼんやりしているが、記憶は鮮明だ。
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