君と、○○のない物語
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引っ越しの日、朔太郎は友人たちに見送られて電車に乗り込んだ。
元気でな、手紙書けよ、などの言葉をもらい、若干涙目になりながら電車に揺られて苑生を目指す。
あんな友人たちがいながら、何故自分は死のうなんて思ってしまったのだ。
一人じゃないって、それだけで、生きてく糧は見出だせるものなのに。
途中で一度乗り換えをし、辿り着いた終着駅は若干錆びれ若干改装された、中途半端な汚さであった。
駅からはバスに乗ることになっていたので時刻表を確認してみると、次の出発は約2時間後、現時刻は前回のバスが出発した直後である。
何てこった。
他の時間の運行も見てみると、ほぼ二時間に一回しか来ない上、行き先違いの運行もあるので時おり三、四時間に一回と来たもんだ。
思わず溜め息が出た。
祖母には昼過ぎに着くだろうと連絡してあり、今はまさに昼過ぎだ。
二時間も待ったら夕方の方が近い。
引っ越しの荷物の整理が終わらなくなるではないか。
むしろバスを待つより歩いた方が早いのかも知れない。
確かバスで30分はかかると聞いたし、歩いたら倍以上かかるとしても、此処でする事もなくぼんやり待っているよりずっと有意義だ。
だが、家の場所がよく分からない。
地図はバス停から先の分しか貰っていないし、一応駅の隣にある小汚ない町案内所に人の気配は皆無だ。
約立たずめ。
朔太郎は途方に暮れて地べたに重たい荷物を落とした。
病院から直接こちらに来る事になったので、一度家に帰って大きな荷物を段ボールに詰めて祖母の家に送り、家を退居してまた病院に戻った。
つまり今落としたのは殆ど病院に置いていた荷物である。
ちなみに、春海の私物は朔太郎が預かる事になった。
比較的物の少ない家だったが、それなりに場所は取る量である。
祖母には本当に申し訳ない。