粛清者-新撰組暗殺録-
当の斎藤は、はっきり言っていい迷惑だった。

大勢で集まって騒ぐのを好まず、孤独を愛する斎藤にとって、慕ってくれるとはいえこんな口喧しい娘が付き纏うのは、少々きつく言えば不愉快である。

だからといって無碍にする訳にもいかず、斎藤としてはほとほと困り果てていた。

いっその事、強く言い放って嫌われてしまうのも手だ。

そうでなくても新撰組は『壬生狼』と蔑称されて忌み嫌われる存在。

今更娘が一人敵に回った所で、さして驚く事はない。

そう思って覚悟を決めて、娘の顔を見るのだが。

「?」

斎藤の思惑など知る由もない娘は、屈託のない可愛らしい笑顔を彼に向ける。

…如何に斎藤とて、この笑顔を前に憎まれ役を買って出る事など不可能だった。

あの笑顔を向けられると、途端に口が塞がってしまう。

かくして今日も斎藤は、娘の他愛ない話に夕暮れ時まで付き合わされる羽目になったのである。

日が暮れて娘が帰り、斎藤は疲れ果てて重い腰をあげる。

(やれやれ…)

彼は深い溜息をついた。

(これなら毎日池田屋事件のような斬り合いをしていた方がマシだ…)

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