粛清者-新撰組暗殺録-
「どうだ斎藤、あの娘とはうまくやっているか?」

三十郎の言葉に斎藤の眉がピクリと動く。

慶応二年四月一日。

この夜、斎藤は屯所を一人抜け出し、祇園のとある飲み屋で酒を飲んでいた。

飲めば人を斬りたくなるという妙な癖のある斎藤だったが、ここ最近は何故か気分もよく、美味い酒が飲めた。

だから悪酔いする事もなく、人斬りに及ぶ心配もなかったのである。

しかし、この飲み屋にたまたま同じ新撰組の七番隊組長、谷三十郎が入ってきた事から話はこじれてきた。

槍の使い手で池田屋事件でも活躍した新撰組幹部の一人。

だがこの男の下卑た性格に、斎藤は吐き気を覚えるほどに嫌悪を感じていた。

三十郎はそんな事は知る由もない。

斎藤が自分よりも年若であるのをいい事に、好き勝手な事を言う。

普段は勿論の事、酒が入ると更に礼儀というものを知らなかった。

そして酔いが回ってきた頃に吐いた台詞が前述のものである。

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