粛清者-新撰組暗殺録-
その数日後、斎藤はまたとある料亭で飲んでいた。

同席しているのは時尾ではなく、御陵衛士の面々である。

「しかし傑作でしたな、あの近藤勇の顔は!」

程々に出来上がった富山弥兵衛が笑いながら言う。

「あれ程鬼だ修羅だと京洛で恐れられた新撰組局長の近藤が、伊東さんの実質脱退したいという申し出に首を縦に振らざるを得ないとは!」

「あれは彼が腑抜けているのではない」

伊東が銚子を一本空けながらニヤリと笑った。

「あれは私の駆け引きが巧過ぎたのだ。あまりにも…な」

その言葉に、同席していた者達がドッと沸く。

「成程!これは一本とられました!」

「伊東殿も言いますな!」

その場は近藤勇の批判非難を酒の肴に大いに盛り上がる。

「……」

唯一人、斎藤だけが盛り上がりの中に入らぬままで、一人でチビリチビリと酒を飲んでいた。

「どうした斎藤君、まだ近藤に未練でもあるのかね?」

伊東が直々に斎藤のそばに来て酒の酌をする。

「いえ…そういう訳ではないのですが…」

伊東の杯を受けながら、斎藤は控えめに笑った。

「ただこれまで何かと裏仕事が多かったものですから、このような賑やかな宴の席には慣れておりませんで…申し訳ありません、場を白けさせてしまいまして…」

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