粛清者-新撰組暗殺録-
油小路木津屋橋。

慶応三年十一月十八日の夜、伊東甲子太郎はここを一人で歩いていた。

彼はとある薩摩出身の志士に呼び出され、出向く途中であったのだ。

(これは、かねてより打診していた薩摩藩への御陵衛士受け入れの話に違いない)

伊東は心の中で呟きながら浮き足立っていた。

先の十一月十五日、後に明治維新最大の功労者と呼ばれる事になる高知土佐藩出身の浪人、坂本龍馬が暗殺されている。

彼が何者によって暗殺されたのかは定かではないが、彼は伊東にとって良い結果を置き土産として残してくれた。

薩摩と長州による連合、『薩長同盟』。

これにより、倒幕派の勝利は現時点でもほぼ確定といえた。

その勝利が確定した薩摩に、これから伊東一派が取り入ろうというのだ。

こんな旨い話はない。

伊東が浮き足立つのも仕方がなかったのかもしれない。

…だが、それも泰平の世での話。

如何なる時であろうと、血で血を洗う抗争の続く『幕末』という時代には、剣客としての心構えを忘れる事は決して許されない。

それを忘れたのが、伊東甲子太郎の『死因』となった。

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