粛清者-新撰組暗殺録-
切っ先を紙一重で見切った吉田は、素早く総司の横をかすめ抜けた。

やはり総司の動きには、いつもの精彩がない。

「新撰組一番隊組長、沖田総司…」

吉田の刀が振り上げられる。

「この長州派維新志士、吉田稔麿が殺ったぁ!」

彼の斬撃は迂闊にも背後を取られた総司の左の肩口に!

「っ!」

吉田と同じく紙一重で深手を避けた総司だったが、それでも新撰組の証である段だら模様の羽織の肩口には、真紅の血が滲んでいた。

「致命傷は避けたか…だがどの道貴様に勝機はない」

刀を正眼に構え、にじり寄る吉田。

総司は肩の傷を押さえ、激しく息を切らす。

最早疑う余地はない。

彼は明らかに体に変調を来たしている。

「……」

斎藤が左手の刀を握り直す。

しかし。

「待て」

永倉がそれを制した。

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