さよならとその向こう側
通りに出ると、実はすぐにタクシーを拾った。

大学から電車で一駅の所にある実のマンション。さすがに今は電車で行ける状況ではなく、タクシーを利用したのだろう。



「彩夏、彩夏。…泣かないで。」


私を優しく抱き寄せながら、小さな声で耳元に囁く。


大好きな実の声。

いつもこの声にドキドキしてしまう私。

だけど今は違った。



実の考えている事が分からない。



今から実のマンションに行った所で、別れ話をされるだけだろう。


それなら優しくなんてしないで欲しい。


私は期待してしまう。

"実はまだ私の事が好きなんじゃないか?"


優しく抱き寄せてくれる腕に、どうしても甘えてしまうから…。


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