[短編集]恋花
耳に入ってくるのは、最近頻繁に聞くようになった洋楽。
誰も通らないことをいいことに、俺は音量をガンガン上げる。
きっと誰かが隣にいれば、“音漏れしてる”と注意してくるのだろう。
が、今は幸い誰もいない。
幸い、なのか不幸だったのか───。
家まであと数百メートルの場所にさしかかった時だった。
「…ねえ…」
かすかに頭に響いた、女の人の、声。
まさか、と思いながらも、音楽に意識を集中させる。