スタッカート
今まで感じたことのないそれに、聞いたことない歌声に、私はその場から動けなくなってしまった。

驚きで、真正面にいる彼を見つめられずにはいられない。

隣にいたヒナが声をかけてくる。

「ね、すごいでしょ?」

ヒナのその言葉が聞こえるか聞こえないかのタイミングで、私の後ろにいた観客が歓声をあげて前に押し寄せてきた。

最前列の私は物凄い力で前に押され、激しい頭痛の波と吐き気でふらついていた足はすぐにもつれた。

―倒れてしまう……


ゆっくりと真っ暗な世界に引きずり込まれていく。

遠ざかる音と滲んでいく景色。



闇に落ちる寸前、私が見たのは、ライトに照らされキラキラ光るマイクと、射抜くような鋭い瞳だった。
< 12 / 404 >

この作品をシェア

pagetop