つま先立ちの恋
私たちはセーラー服をコートの下に隠し、フーの会社の入っているオフィスビルの一階に潜入した。そしてエレベーターの死角に隠れた所で葵ちゃんはケータイ電話を取り出す。お互い無言で頷き合い、葵ちゃんはケータイのプッシュボタンを押した。

ケータイを耳に充てながらコール音を数えている葵ちゃんを、固唾を呑んで見守る私とパペちゃん。葵ちゃんの顔が変わった。


スイッチ、ON。


「もしもし。国内業務部の高崎冬彦さんをお願いします。…いえ、違います。孫灯歌と伝えていただければわかります。はい、…はい、すみません。お願いします」

七色の声を持つ放送部のアイドル、葵ちゃんはいつもよりもぐんと大人っぽいセクシーボイスで電話の相手に話しかけていた。こういう時、何故か葵ちゃんの顔まで大人っぽく見えるから不思議。


なんて私がのほほんと葵ちゃんの声に聞き惚れていると、葵ちゃんの顔に一瞬の緊張が走ったのがわかった。


「もしもし? あ、柏木さんですね。私、灯歌ちゃんの友人の東雲葵と言います。お仕事中、突然すみません。…いえ、実はですね、灯歌ちゃんから冬彦さんに渡してほしいと頼まれた物がありまして…」

葵ちゃんが黙り込む。柏木さんが何か言っているらしい。

「灯歌ちゃん本人はちょっと風邪を引いてしまって、来れないんです。でも、どうしても冬彦さんに渡してほしいと頼まれて…ご迷惑とは存知ますが…」

てゆーか、いつもながらものすごい変身っぷりだなぁ、と感心してしまう。言葉遣いも完璧だし。中身は中学生なのにね。


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