つま先立ちの恋
こ、これは……ましゃか……


なんてドキドキが高まっていく私の後ろからも、同じ声が聞こえてくる。

「何だろうね。何だかイケナイ物を見ているような…」

「やっぱり葵ちゃんもそう思う?!」

目線はバッチリ明人さんを掴まえたまま私が言うと、私の頭の上で何度も頷く気配がした。顎気を付けてね、葵ちゃん。


明人さんと女の人はタクシーのドアを挟んで見つめ合っている。明人さんが女の人にタクシーに乗るように進めた。だけど女の人は首を振って、何か明人さんに向かって訴えているみたいだった。残念ながら女の人はこっちに背中を向けているから、どんな顔をしているのか見えない。

すると明人さんはふわりと笑い、そっと女の人の耳元で何かを囁いて…そのまま彼女をタクシーへと誘うようにその背中に手を添えた。

だけど自分はその場に残り、走り出したタクシーをしばらく見送る。


それから振り返り眼鏡を外すと、その唇で眼鏡を折り畳みながらふと持ち上げたその目で、


「やあ、偶然だね。」


私を見つけたのだった。


< 395 / 468 >

この作品をシェア

pagetop