つま先立ちの恋
「あの、ひとついいですか?」

「何か食べたい物がある?」

「…違います」

この人の笑顔って、本気なのか冗談なのかわかんない。意地悪だっていうことはわかるけど。あと、楽しんでるっていうのも。

「あの、今日、どうしてここに私を連れて来たんですか?」

明人さんからもらったご飯をキレイに食べきってお腹もいっぱいになった私。今更だけど聞いてみた。

「会いたかったんデショ、冬彦サンに」

「それはそうですけど…」

「なら、良かったね。会えて」

明人さんは極上の笑みを浮かべて言う。極上という言葉を人生で初めて使ったかもしれない。その相手がフーじゃなくてこの人だったっていうことが悔しい。

違う違う、そうじゃないだろう、私!しっかりするんだ!!

「そういうことじゃなくてですね…」

「じゃあ、どういうことかな?」

明人さんは空になった料理のお皿を私から受け取りながら、また笑った。少し近くで。


………私の知らない香りがして、背中がゾクリとした。


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