【短編集】僕達の夏
ガキで、馬鹿で、本当によく笑い、五月蝿くて、すごく人懐っこくて………


「周りの人達は、皆僕より晃矢が好きだから…」

そんな世界をもう直視したくなかった。
そんな世界の中心にいる晃矢を、その世界の影にいる自分にはまぶしすぎる兄を見続けていたら、どんどん自分が駄目になっていくような気がして。




「泰斗は月なんだね。」


ずっと黙っていた風理は何気ない風に言った。

「…え?」

「昼間の太陽に憧れる月。昼間に空を見るとひっそりあるでしょ?月も。」


青い空の中で雲のような白さで、ひそかに佇む月。

「昼間の太陽は夜には輝けないよ。昼間が太陽の存在意義(アイディンティティ)なんだから。その逆もまたしかりってね。」

そう言って風理はいたずらっぽく笑った。




「…そうだとしても…月は太陽がいなきゃ輝けない。太陽がいなかったら、月はただの土の塊だよ。」


俯いて言った僕に、風理はなおもにやりと笑みを広げて見せた。
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