【短編集】僕達の夏
玄関を出て、いつもの角を曲がると、背後から声がついてきた。
「昨日の話は覚えているか?」
聞き覚えのある声に違和感を感じ振り返るが、そこに彼、ヒグラシの姿はない。
また、声がする。
「覚えているか?」
「あぁ、覚えているよ。
しかしなんだって姿を見せないんだい?」
「この世界では日の力が強い間は相性がよくったって俺の姿は見えねんだ。」
昼間は見えない…
彼がいた世界と関係あるのだろうか。
再び歩き出しながら、周りに怪しまれないように携帯を取り出し、受話口を耳にあて尋ねる。
「君のいた世界はどんなところなんだい?」
「朱い」
「…え?」
あまりに短い返答に思わず聞き返す。
「俺のいた世界はここのようにてっぺんまで日が昇ってきたりしない。
少し顔を出して、それから沈むんだ」