【短編集】僕達の夏
    ちりん




風鈴の音は、
その少女の頭上で

揺れていた。






 僕と同じ位の歳の顔で、

華奢そうな背中にかかる濡れたような黒髪は恐ろしく黒くて、

こちらに向けられた瞳は吸い込まれるような群青色だった。














「……迷っちゃったの?」

 彼女の声を聴いてから数秒、
やっと自分が声をかけられたのだと気付いて慌てて頷く。

彼女はにっこりと懐っこそうな笑みを浮かべた。
「じゃあちょっとお話しよっ。」

おいでおいでと自分の隣をたしたしと叩いている。


…―今日中に帰れれば良いか―…



 少女は、名前を『幾渡世 風理(イクトセ カザリ)』と言った。
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