チェリーをあげる。

「あの、すみません…!」




私の声に、彼がこちらを振り向いた。




「はい…?」


「すみません…、あの…、橋尾渡さんですよね…?」


「…そうですが」




渡さんは「何か用ですか?」とでも言いたそうな顔をしていた。




「あの…、突然ごめんなさい…!」


「…はい?」




かなり緊張したけど、もう恥じも何もない。




「あの…、私…、若井雛(ワカイヒナ)っていいます…。いつもこのお店に来てるんですけど、渡さんのこと、ずっといいなと思ってたんです…」


「え…?」




一瞬彼の表情が固まるのがわかった。




やっぱり迷惑かなと思ったけど、


私はバッグの中から自分の気持ちと連絡先とを書いた手紙を取り出すと、




「これ、後で読んでくださいっ…!」




それを無理矢理彼に握らせていた。




そして何か叫んでいる彼を無視して再び自転車にまたがると、


私は一気にペダルを漕いで、店の外へと走り出していた。
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