感方恋薬-かんぽうこいやく-
「ううん、そんな事は絶対に嫌だけど」


「ならば、わしのいう通りにする事じゃ。この呪術は、門外不出、一子相伝、貴子以外は
知る必要が無い。良いな」


あたしは爺を見ると小さくこくんと頷いた。


それを見た爺は満足そうな表情をすると(なんとなくそう見えた)あたしの前からすっと消えた。


「そうか、やっぱり秘密にしなけりゃ成らないのかぁ」


と、呟いて周りを見渡すと何人かの近所のおばさま達があたしを見てひそひそ話をしている。


そうか、爺はあたしにしか見えないのか。


と、いう事は路上であたしは意味も無く独り芝居をしていた事に成るなぁ。


あたしはこほんと一つ咳払いをすると、その場をそそくさと立ち去った。
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