この胸いっぱいの愛を。
「とりあえずボタンを締めろ!
ネクタイも結び直せ!」
「えっ、ちょ……!」
命令口調で言っておきながら、先輩は俺のブレザーに手を伸ばした。
「まったく……」と呆れ口調で言いながら、俺のブレザーのボタンをとめていく。
予想外の展開が連続しすぎて、上手く頭が回らない。
抵抗しようと思えばできるはずなのに、何故か俺はされるがままになっていた。
そんな調子で、ネクタイもきちんと結び直され……
「うむ、これで良い」
満足気に頷いた先輩の目に映るのは、優等生さながらの俺。
まぁ、髪は相変わらず金色だし、ピアスもついたままだけど。
気付けば野次馬もいなくなっていて、廊下には人がほとんどいない状態。
「身だしなみは大事だからな。
初日からそんな格好では、先が思いやられる」
先輩は心配そうに言って、胸の辺りで腕を組んだ。
俺とは正反対の、筋肉質で、少し焼けている男らしい腕。
少し前の俺なら、何か言い返していたかもしれない。
だけど、その時の俺は、何も言わなかった。
いや、言う余裕がなかったのかもしれない。
色々な感情が、頭の中で渦巻いていたから。
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