音楽バカ

それっきり黙り込む山羽に、質問の意図が読めない希良は「あの……」と言った。

「ご用件は……?」

上目遣いに伺うと、山羽は意を決したように口を開いた。

「………河合くんは、」

河合くん…?

一瞬つながらなかった思考回路だが、遙のことだと気づいた。

「河合くんは元気……?」

ためらいがちに言った顔は、とても苦しそうだ。

「あ……はい。元気です。」

なんだかこちらが泣きたくなる。

「そう…。」

ほっとしてるのだろう。
表情こそ緩まないが、何となくわかった。
以前は知らないと言っていたが、やはりそれは嘘で。
美音とその兄のやりとりをぼんやりと思い出した。

「あなたもがんばるのよ、コンクール。」

「はい、ありがとうございます。」

そういって希良は笑った。
山羽の口角がほんの少しだけ上がったように見えた。



その優しげな表情が遙と重なった。



今年の夏はまだまだ暑くなりそうだ。
耳を塞ぎそうな蝉時雨も、ギラギラと照りつける日差しも、それを予感させる。
< 56 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop